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昭和33年。浅草寺の落慶や東京タワーの完成を迎えたこの年に、居酒屋「志婦゛や」が創業した。心温かい人情と安くて旨い酒と肴が味わえる、老舗の名居酒屋である。
浅草寺へと続く仲見世通りの東側、隅田川よりに平行して走る、かんのん通り。観音境内へと向かうこのアーケード街は、宵のうちから粋な旦那が出入りする下町情緒あふれた場所だ。深緑の暖簾をくぐり、引き戸を開ける。カウンターと小上がりのこぢんまりとした店内で目を上げると、ご近所衆から納められた“招き”やさりげなく飾られた三社祭の団扇が見える。たまに聞こえる2階の足音や子供たちの声もご愛嬌。
小上がりから気さくに注文できたり、隣り同士で話が盛り上がることもしばしばの距離感。3代目、渋谷清一郎さん曰く「混んでたら相席をお願い」のなんとも親しみやすい雰囲気がいい。20年近くもこの店に勤めるお手伝いの方は「しーちゃん」という愛称で呼ばれ、今夜も賑やかに営業している。もとは魚屋だったという「志婦゛や」。
「昔は旅館や料亭がたくさんあったから、そこへ築地の魚を入れたりもしていました。しかも本家は鶏肉屋。魚も鶏もあったから、戦後に戻ってきた祖父と父が居酒屋への転業を決めたんです」だとか。
「創業以来、祖父と父が守り続けたのは、本わさと炭へのこだわり」と、渋谷さんは話す。主人自らが築地へ出向き、仲買人とその日一番美味しい魚介を手に入れる。その素材の旨さを損なうことなく引き立てる名脇役にこだわるのも合点がいく。古くから付き合いのある鶏肉屋から仕入れる岩手の地鶏は、細めの紀州備長炭の強い火力で旨さを逃すことなく焼き上げる。
通りに面した位置にある焼き台からは、いい香りが漂ってくる。「例えば、くさや焼いたら、くさやあるの?といってお客さんが入ってきたり、俺んとこも頼むわー、なんて4〜5枚一度に出たりすることもあるんですよ」と目尻にやさしく皺をよせる。
店名の「志婦゛や」。音は主人の名字、字は婦人を志すと書くが……。「愛嬌のある店っていうことだと思っています。かざらずに楽しくお酒を飲んでもらえる店であり続けたいですね」。夕暮れと同時に暖簾を出すと、待ってましたとばかりに客が入る。旬を舌に感じ、人間味を心で感じる、そんな浅草の名居酒屋で、小粋な夜を楽しみたい。
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